公認心理師(国家資格)・管理栄養士 西川範彦
新型コロナウィルスの影響下で、不安な状況、見通しが立たない状況が続いています。心の専門家の一人として何かできることはないかと思い、現況の中での心の持ち方をお伝えすることとしました。
こんな時に参考になるのが、私が行っている心理療法(SAT療法)の開発者である筑波大学名誉教授 宗像恒次先生の御著書『見通しが立たない状況下で生き残る方法』(きこ書房)です。この本を参考にしつつ、私の考え、経験も踏まえて書かせていただきます。
-目次-
見通しが立たない状況下での心の持ち方【5か条】
1.
現在の状況を人と語り合う、分かち合う
2.
一日に何か一つ楽しみをつくる
3.
いま置かれている状況の意味を考える
4.
希望を持つ
5.
おだやかに現実的に対処する
心の安定に役立つ食事改善
1. 現在の状況を人と語り合う、分かち合う
「いやー、今の状況いつまで続くのかな−。嫌だな−(不安だなー)。」など、率直に気持ちや感情を口に出しましょう。
「愚痴は絶対言っちゃダメ」と頑なに思っている方がいます。
価値観は人それぞれですが、「無理矢理前向き」にしているとしたら、時には多少愚痴っても良いのではないでしょうか。愚痴るというより、率直に気持ちや感情を伝えるという感覚が良いと思います。
無理矢理前向きな人や、我慢強く一人で頑張ってしまう人は、脳内で「ノルアドレナリン」という緊張物質が分泌されやすくなっています。ノルアドレナリンは、不安や恐怖と密接な関係がある神経伝達物質で、被害妄想やパニックを引き起こすと言われています。そのため、無理矢理前向きな人、我慢強く一人で頑張っている人は、ノルアドレナリンが分泌され続け、恐怖やパニックを閉じ込めてしまい、さらにノルアドレナリンが増えるという悪循環に陥ります。
ノルアドレナリンが過剰に出続けると、肩が凝ったり、血圧や血糖値が上がったりします。
さらには白血球の中の顆粒球が増え、活性酸素を発生させます。過剰な活性酸素は細胞や遺伝子を攻撃し、体の炎症や遺伝子異常をも引き起こします。
ノルアドレナリンは、喋ること、よく噛むことで低下し、心が穏やかになることがわかっています。飲み食いでストレスを発散するのも一つですが、やり過ぎると体によくないのはご存知の通りです。それよりも、「不安、寂しい、苦しい、腹が立つ」などの気持ちや感情を吐き出すことが大事です。感情を吐き出すと如何にラクになるかは、経験していただければわかります。
話す相手がいない、他人には自分の気持ちを伝えたくない、人と接するのが苦手という方の場合は、セルフトークという方法があります。自分の感情や気持ちを日記に書く、声を出して自分に話しかける、心の中でつぶやくのも良い方法です。できれば、人と語り合って分かち合うのがよいのですが、いずれにしても気持ちや感情をごまかさないこと。ありのままを見つめること、向き合うことが大切です。
気持ちをごまかさず、人と語りあい分かち合うことは、いつの時代でもどのような状況でも人生を豊かにしてくれます。
2. 一日に何か一つ楽しみをつくる
『思い通りにいかない=心理的ストレス』です。ストレスと上手につきあうために、毎日何か一つ楽しみをつくることを提案します。
湾岸戦争当時、人質になった方々が見つけた楽しみは母国語の勉強会でした。様々な国籍の人がいたため、お互いの母国語を他国の人たちに教えようとなったわけです。難しい内容ではなく、日常感覚の会話ができるようになればいいと和気あいあい勉強会を楽しんだそうです。過酷な状況の中でも楽しみを見つけることができるという実例です。
私の場合、幸いなことに自宅から徒歩10分ほどに畑があって、自粛期間中は以前よりも畑に関わる時間が増えました。野菜や果物の成長を見るだけで楽しくて仕方がありません。
皆さんの楽しみは何でしょうか。考えるよりも、楽しさを感じながらひらめきで見つけてみてください。もう既に見つかっている方は、そのまま継続してください。
運動もいいですね。1日に30分ぐらいは散歩をするとよいかと思います。リラックスして歩くのは気持ちがいいです。体を動かさないと、身体が硬くなってしまいます。仏教に「心身一如」という言葉がありますが、身体が硬くなると、心も硬くなってしまいます。
3. いま置かれている状況の意味を考える
どこに向けてよいかわからないマイナス感情(不安、怒り、寂しさ、苦しさなど)は、ストレスを何倍にもしてしまいます。思い通りにならない状況になったら、少し立ち止まって人と共有したり、助けを求めたりしながら意味を考えてみましょう。いま置かれている状況は無駄ではない、と自分に言い聞かせるのも一つの方法です。
最近、オンラインでの講座、相談、ミーティングなどが増えています。オンラインで話す機会が増えてわかってきたことは、遠方の方や、都合で家や職場を空けられない方々が、オンラインだからこそ参加できたということです。この状況になったからこそわかったことであり、意味があり、無駄ではなかったのです。
見通しが立たない困窮状況を体験するとき、人は、自分の生きる意味に初めて気づくようになります。私が普段行っているカウンセリングでも、病気や人間関係のトラブルから、ご自分の人生を振り返り、今までの自分のやり方では通用しないと痛感された方々が、その状況を乗り越えたとき、自分の生きる意味に気づくことがよくあります。
日々希望をもって、おだやかに現実的に過ごしていきましょう。
4. 希望を持つ
ラット(ネズミ)を使った実験をご紹介します。
かわいそうなのですが、ラットのヒゲ(触覚の役割)を切り取り、そのうえで、身動きの取れないよう一定時間拘束します。身動きが取れないラットは無力状態となり、積極的に動こうとしません。この状態のラットを水に落とすと、数秒でおぼれ死んでしまうのだそうです。自律神経の極度なアンバランスによるショック死(心停止)の状態です。
同じ様に無力状態にしたもう一方のラットは、水に漬けて引き上げる、また水に漬けて、また引き上げる。これを繰り返します。この後再びラットを水に漬けると、ラットは自ら泳ぐようになるのです。つまり、自分は助かる、助けられるということを学習したラットには、生きる力が復活したと考えられます。
この動物実験の教訓は、いかに希望をもつことが大事かということです。いつか必ず乗り越えられる!と思うと、脳内にドーパミン(快感物質)が分泌され、なんとか日々を過ごしていこうという気力が湧いてきます。決して希望を捨てず、この状況は乗り越えられる!と思ってください。
5. おだやかに現実的に対処する
見通しが立たない状況に追い込まれてしまうと、現実的な判断ができにくくなります。思い込みと妄想がふくらむと、パニックになりやすいので、とりあえずしばらくの間、様子見を決め込むことです。でも様子見をしていただけでは、嫌な感情が持続してしまいますので、ここは5か条の1つ目【現在の状況を人と語り合う、分かち合う】の出番です。完璧主義の方は、追い込まれた状況で「まあ、いいか」を繰り返し口にするのもよいですよ。
呼吸法、瞑想、深呼吸、リズミカルなこと(よく噛む、音楽を聞く、散歩をするなど)もいいですね。脳内に情緒が安定するセロトニンが分泌されやすくなって、精神的に落ち着き、パニックにならず、現実的に対処できるようになります。
現実的になるには、いまの状況をいったん受け入れることです。受け入れないまま無理に前向き思考にしようとすると、心が楽になっても、体の不調として現れやすいのです。おだやかに、冷静になってから、いま現実に何をしたらいいか、どうすべきかを考えましょう。
不安な状況、見通しが立たない状況は、心と体の健康を見直すチャンスとも言えます。今回の新型コロナ危機を乗り越えた先に、より健康的で幸せな社会が訪れることを期待しましょう。
心の安定に役立つ食事改善
心穏やかに過ごすには、食と栄養に気をつけることも大切です。いくつかポイントを紹介いたしますので、ぜひ参考にしてみてください。
●食事で大事なのは
主食を取ることです。特に玄米は、
精神安定に必要なビタミンB群、E、鉄などを取ることができます。
●食物繊維は、腸を刺激して活発に動くことで、
副交感神経を刺激し、
免疫力の維持にもつながります。野菜、豆・豆製品、海藻、きのこ類は毎日取りたい食材です。
●大豆・豆製品に含まれるトリプトファン(アミノ酸)は、脳内の神経伝達物質のひとつであるセロトニンを生成します。不足すると神経バランスが崩れやすくなるのでマメに取るよう心掛けましょう。
●食事をするときに大切なのは
"よく噛むこと"です。よく噛むことでだ液が多く分泌され、さらに自律神経を整えるセロトニンの分泌も促します。
●効果的な栄養素と食材をご紹介します。
•
ビタミンE(ごま、ピーナッツ、アーモンド、玄米)
ホルモンバランスを正常化や、血行・神経の働きに関わります。
•
ビタミンC(ブロッコリー、ピーマン、キャベツ)
副腎に多量に存在し、ストレスに対抗するホルモンの生成に役立ちます。
•
ナイアシン(かつおぶし、落花生、かぼちゃ)
睡眠時に安眠を促してくれます。
•
マグネシウム(ひじき、玄米、ごま)
筋肉の緊張を緩める作用があり、精神の安定にも関わります。
•
カルシウム(小魚、モロヘイヤ、小松菜、にんにく)
イライラを鎮め、精神の安定をもたらします。ホルモン不足による骨粗鬆症の予防にも。
不安な状況、見通しが立たない状況は、心と体の健康を見直すチャンスとも言えます。この危機を乗り越えた先に、より健康的で幸せな社会が訪れることを期待します。
見通しが立たない状況下での心の持ち方【5か条】が、皆様の健康維持に役立てば幸いです。
ありがとうございました。
「ストレスとうまくつきあうためのヒント」を解説した動画もございます。
ストレスをためやすい方、心配性の方、不安になりやすい方、メンタルケアに興味がある方は、ぜひご覧ください。
著者: 西川範彦
プロフィール
公認心理師(国家資格)・管理栄養士・ヘルスカウンセリング学会公認健康心理療法士・認定発達しょうがいアドバイザー・和みのヨーガインストラクター
株式会社玄米酵素 医療連携推進室 主任
昭和51(1976)年大阪府生まれ。大阪府立看護大学(現大阪府立大学)医療技術短期大学部臨床栄養学科卒業。筑波大学宗像恒次名誉教授に師事し心理療法(SAT療法)を修得。全国で9名しかいない健康心理療法士の資格を所有。11年間の人工透析クリニック、がん診療拠点病院での勤務をする中で、西洋医学のみの医療では充分でないことを感じ、平成23(2011)年4月に(株)玄米酵素入社。心理カウンセリング、講演活動、ファスティングツアーを担当。ストレスとの上手なつきあい方についてもアドバイスしている。
【関連記事】
日本人の遺伝子に合ったストレス対処法 日々できるセルフケア 5つのポイント
約15時間前後のセッションでうつ・不安・恐怖・身体の不調を解決するSAT療法カウンセリングとは