【監修】管理栄養士 加藤初美健康自然食料理教室エコロクッキングスクール指導講師
「酵素(こうそ)」「麹(こうじ)」「酵母(こうぼ)」
3つとも最初に「こう」が付く三文字で似ていますが、全くの別物です。
「麹(菌)」と「酵母」は微生物なのに対し、「酵素」はタンパク質の一種で、生き物ではありません。
それぞれの特徴をご紹介します。
-目次-
1. 酵素(こうそ)とは
2. 麹(こうじ)とは
2-1 麹菌が作る酵素の働きを利用した食品
2-2 魚や肉が柔らかく、美味しく変身!
2-3 麹菌は日本の「国菌」
2-4 「麹」と「糀」の違い
3. 酵母(こうぼ)とは
4. 「酒造」は麹・酵素・酵母の連携プレイ
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1. 酵素(こうそ)とは
酵素をカンタンに表すと、
『働くたんぱく質』。体内で起こる化学反応を助ける働きがあります。人間はもちろん、あらゆる動物・植物・微生物などの体内で作られ、生命活動を支えています。
代表的なのは食べたものの分解を助ける酵素。例えていえば「ハサミ」のようなものです。
デンプンやタンパク質を細かく切り、糖分やアミノ酸に変えて、栄養素を体内に吸収しやすい形に変えてくれます。
また、お酒のアルコールを分解するのも酵素のチカラが働いています。お酒に含まれるアルコールは、そのまま体内にとどまると危険なので、ADHやALDHという名前の酵素が、無害な物質(酢酸)に変えてくれます。
お酒に強いか弱いかは、ALDHのタイプの違いで決まります。
さらに、人間だけなく、微生物である「麹菌」や「酵母」も酵素を作ります。特に、麹菌がつくる酵素は、カツオ節、味噌、お酒などの発酵食品を作るのに、なくてはならない存在です。
参考:「アルコールの吸収と分解」(厚生労働省 e-ヘルスネット)
2. 麹(こうじ)とは
スーパーなどで見かける「麹」は、蒸した米や麦などに麹菌(微生物)を生やしたもの。麹菌は、酵素を作るのが得意な微生物で、体内で大量の酵素を生産し、体外へ分泌する能力が高いという特徴があります。麹菌の作る酵素を利用して、酒や味噌、醤油などの日本に昔からある発酵食品が作られています。
2-1 麹菌が作る酵素の働きを利用した食品
【カツオ節】
カツオに麹菌を植えつけるとカツオ節になります。カツオには脂がたっぷりのっていますが、麹菌が作る「脂肪を分解する酵素」が、脂質をバラバラに分解してくれるので、カツオ節には脂質がほとんど残っていません。
【甘酒】
麹菌が作る「糖質を分解する酵素」の働きで、お米のでんぷんがバラバラに分解されて、糖分が生まれます。これが甘酒の自然な甘みになります。
【味噌】
蒸した大豆に、麹と塩を加えて発酵、熟成させたもの。米麹や麦麹など、使用する麹の種類によって、米味噌や麦味噌などさまざまな味噌になります。
【玄米酵素】
玄米・胚芽・表皮を、麹菌で発酵させた食品。成分を分析すると、発酵により、健康成分として話題のアミノ酸、ペプチド、また美容成分であるコウジ酸や、フェルラ酸の関連物質が増えていました(※)。これらは、麹菌が作る酵素の働きによって生まれた成分です。
※参考:Journal of Computer Aided Chemistry , Vol.18 (2017)
Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis vol.142(2017)
また玄米酵素には、麹菌が作る「食べたものの分解を助ける酵素」が含まれています。
動画はこちら
食べたものを分解する!酵素のチカラを目で見る実験
2-2 魚や肉が柔らかく、美味しく変身!
麹菌が作る「たんぱく質を分解する酵素」は、たんぱく質をチョキチョキと分解し、アミノ酸などの旨み成分を作ってくれます。魚や肉を麹で漬け込むと、たんぱく質を分解する酵素により、旨み成分が増えておいしくやわらかく変身します。
2-3 麹菌は日本の「国菌」
麹を作るのに欠かせない麹菌は日本の環境でしか育たず、かつ、味噌や醤油、酒、漬物などの日本の伝統食品の発酵・醸造になくてはならないものです。麹菌(アスペルギルス・オリゼー )は、古くから日本の豊かな食文化に貢献してきたことが評価され、2006年10月12日、日本醸造学会により
「国菌」に認定されました(※)。
日本醸造学会の発表文には「今後ますます産業的に重要な菌として医薬品をはじめ、広い分野で有用物質の生産に用いられるであろう。」と書かれているほど、日本の貴重な財産として認められています。
※日本醸造学会 国菌認定宣言
2-4 「麹」と「糀」の違い
麹も糀も「コウジ」と読みますが、違いは、
●「麹」は、大豆や麦などの穀物に、「麹菌」(コウジキン)を繁殖させたもの。「麦こうじ」、「豆こうじ」とも言われます。中国から伝わってきた漢字。
●「糀」は、米に「麹菌」を繁殖させたもの。「米こうじ」とも言われます。こちらは日本で作られた漢字。
3. 酵母(こうぼ)とは
酵母は微生物の一種で、糖を食べてアルコールと炭酸ガスを出します。
一般的になじみ深い、パン酵母(イースト菌)もその一つです。酵母の出す炭酸ガスを利用して、パンを膨らませます。
そのほかに、ビール酵母、清酒酵母など、さまざまな種類があります。
ちなみに、健康食品として売られているビール酵母は、ビールの製造過程で出る、発酵後にろ過して取り除かれた酵母を固めたもので、ビタミンB群などの栄養が含まれます。
4. 「酒造」は麹・酵素・酵母の連携プレイ
麹、酵素・酵母の3つのチカラを使って作られる代表的なものが「お酒」です。
ステップ1: 麹が酵素(糖化酵素)を生産する
ステップ2 : 酵素が米や麦のデンプンを糖に変える
ステップ3 : 糖を酵母が食べてアルコールを生産する
このようにお酒は、麹・酵素・酵母の連携プレイによって作られているのです。
「麹、酵素、酵母」の働きにより、吸収がされやすくなったり栄養価がアップしたり、その素晴らしさを再認識していただけたことと思います。ぜひ毎日の食生活に発酵パワーを取り入れましょう!
参考:「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」(文部科学省)