皆さまは、厚生労働省が摂取基準を定めている13種類のミネラルのひとつ、「リン」をご存じでしょうか?
リンは、食品添加物としても使用されており、パッケージに「リン酸塩」と記載されているのを見たことがあるかもしれません。
そこで、リンは身体に良いのか、それとも避けるべきなのか、迷われる方もいるでしょう。
今回は、リンの
役割や摂取基準、食品添加物としての使われ方についてご紹介します。
「リン」の主な役割と過不足時のリスク
リンは多量ミネラルの1つで、体重の約1%を占めるといわれ、カルシウムの次に体内に多く含まれます。
【リンの主な役割】- 骨や歯の材料になる:カルシウムと結合して骨を作り、その硬さを保ちます。
- 神経や筋肉の機能をサポート:細胞膜や核酸の構成成分となり、神経や筋肉の働きを助けます。
- エネルギーを作る手助け:エネルギー代謝に欠かせないATPの構成成分として働きます。
【リンの過剰摂取や不足について】
過剰に摂取すると…
カルシウムの吸収を阻害し、骨量が減ることがあります。また、副甲状腺の機能障害が起こることもあります。
不足すると…
神経症状や骨軟化症が発生することがありますが、普通の食事をしていれば不足の心配はありません。
※腎機能が低下している方は、医師の指示に従って摂取を制限する必要があります。該当される方は、必ず医師の指導を守りましょう。
食品に含まれるリンの量
リンを多く含む主な食品は、高たんぱく食品(肉、魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品)ですが、穀類やナッツなどにも含まれます。
また、食品添加物に多く使用されており、インスタント食品、加工食品など、さまざまな食品に幅広く含まれています。
- 主な食品に含まれるリンの量 -
(100gあたり)
●穀類
玄米(炊飯後):130mg
精白米(炊飯後):34mg
そば(乾):230mg
●乳製品
牛乳(普通):93mg
プロセスチーズ:730mg
●肉・肉加工品
ボンレスハム:340mg
鶏むね(皮なし):150mg
●魚
鮭(しろさけ):240mg
ししゃも:430mg
●鶏卵
鶏卵(全卵):170mg
●大豆・大豆製品
納豆:220mg
木綿豆腐:88mg
●種実類
アーモンド(乾燥):460mg
くるみ(煎り):280mg
リンの1日の目安量と、日本人の摂取状況
食事摂取基準におけるリンの1日の目安量と、国民栄養調査の報告を比較してみましょう。
●1日の食事摂取基準(目安量)18歳以上
男性:1,000mg
女性:800mg
耐用上限量:3,000mg
(*1)
●令和元年 国民健康 栄養調査報告(20歳以上の平均)
男性:1,084mg
女性:948mg
男女ともに、食事からの摂取量は目安を上回っていますが、耐用上限量には達していないため、「大丈夫だろう」と思いがちです。
しかし、安心はできません。
その理由は、
国民栄養調査報告には食品添加物として使用されるリン酸塩が含まれていないからです。
(*2)
実際には、報告よりも多くのリンを摂取している可能性が考えられます。
*1 耐用上限量=健康被害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限。
*2 リン酸塩の含有量については表示がなく摂取量の把握ができません。
食品添加物としてのリン
食品添加物としては、「リン酸塩」が加工食品に広く使用されています。
そのため、最近では、
知らないうちに多くとってしまうことが問題視されています。
<リン酸塩を含む加工食品の一例>
ハム、ソーセージ・練り製品・清涼飲料水・スナック菓子・インスタント食品 など
さらに注意すべき点は、実際にリン酸塩が使用されている加工食品でも、
商品パッケージの食品添加物表示に記載されていないケースがあることです。
これは、食品添加物表示方法のうち添加物表示の例外とされ、以下のように定められています。
【添加物表示の例外】
●
物質名ではなく、一括名で表示できる場合がある
複数の添加物の組合せで効果を発揮することが多い食品添加物や、食品中にも通常存在する成分と同じ食品添加物は、物質名の代わりに一括名で表示することができます。
リン酸塩が使われている場合でも、以下のように表示される場合があります。
イーストフード・ガムベース・かんすい・酸味料・調味料(アミノ酸等)・乳化剤・水素イオン濃度調整剤・pH調整剤・膨張剤・ベーキングパウダー など
●
表示が免除される場合がある- 加工助剤:最終的に食品に残っていない食品添加物
- キャリーオーバー:残っていても量が少ないために効果が発揮されない食品添加物
- 栄養強化の目的で使用される食品添加物(一部の食品は表示が必要)
***
加工食品は便利で、長期間保存が可能なため災害時の備蓄食品になったり、遠くの土地に運ぶことができたりと多くのメリットがあります。
しかし、リンの摂取過多を防ぐためには、日常的に加工食品に偏らず、バランスのとれた食事を心がけることが大切です。
現代では食品添加物を避けきることは難しいですが、上手に選択をしていきましょう。
【参考文献】
『一生役立つ きちんとわかる栄養学』(西東社)
川端 輝江『いちばんわかりやすい栄養学の基本講座』(成美堂出版)
日本人の食事摂取基準2020(厚生労働省)
令和元年国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 (文部科学省)
e-ヘルスネット「リン」 (厚生労働省)
食品添加物表示に関するマメ知識(消費者庁)
食品表示法等 (消費者庁)
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