『パッチ・アダムス』という映画をご存じですか?
自身の経験から笑いが人を癒すことに気付き、
ピエロに扮して患者に接するなど、笑いによる治療を
実践した医師を描いた映画です。
主人公のハンター・アダムスは実在の人物です。
実は今、医療現場で笑いの効用が注目を集めています。
「笑う門には福来る」といいますが、果たして
健康という福もやってくるのでしょうか。
アメリカでは30年以上前から、笑いの効用が注目されています。
きっかけは、1976年に発表されたあるジャーナリストの闘病体験記。
彼は硬直性脊椎炎いう難病にかかり、全快の見込みは1%にも満たない
と医師に宣告されます。ところが、笑うと自覚症状や検査結果が
良くなることに注目し、意識的に笑うようにした結果、数ヶ月で
社会復帰したのです。この体験記が世界中で話題となり、
笑いの治癒効果について本格的な研究が始まりました。
日本でも、さまざまなアプローチから笑いの研究が行われています。
中でも有名なのは、世界的な遺伝子学者である村上和雄筑波大学
名誉教授の研究。2003年に吉本興業と協力して行った実験では、
糖尿病患者さんに漫才を聞いてもらうと、食後の血糖値の上昇率が
抑えられたという結果が出ました。このニュースが世界に配信された
ため、教授のもとには「B&B(漫才コンビの名前)という薬は
どこで手に入るの?」という問い合せがあったのだそうです(笑)。
村上教授は、笑いと健康のメカニズムには、遺伝子の働きが関与して
いると考えています。私たちがもっている遺伝子の約98%は休眠状態
ですが、特殊な環境や刺激をきっかけに働き始めることがわかっており、
遺伝子をオンにするスイッチの一つが笑いではないかと推測しているのです。
血糖値の上昇が抑えられたのは、「血糖降下遺伝子」のスイッチがオンに
なったから。すでに4万ほどの遺伝子を調べ、約50の遺伝子が
笑うことによってオンになることが確認されています。
この他にもさまざまな研究が行われており、がん細胞を攻撃する
NK(ナチュラルキラー)細胞が活性化する、関節リウマチの症状が
軽減する、アトピー性皮膚炎患者のアレルギー反応が抑えられる
といった実験結果があります。笑うと脳や自律神経が刺激され、
血液の循環がよくなり、免疫や情緒の安定に作用するホルモンの
分泌が促されるとのこと。高血圧、更年期障害、認知症にも効果が
あるのではないかと期待されています。
ユニークなところでは、「笑いにはダイエット効果がある」
という報告も。笑いすぎるとお腹が痛くなることからもわかる
ように、自然と腹式呼吸をしています。
笑っている時は安静時の2倍以上もエネルギーを消費している
ので運動と同じ作用があるのです。腹筋や横隔膜が鍛えられ、
便秘にも効果があるとか。
アメリカでは「100回の笑いが15分間のエアロバイクと同じ
運動量」という報告もされています。
笑顔をつくるだけでも脳は刺激され、さまざまな作用が見られます。
したがって正解は、いずれも効果あり。少なくとも、眉間にシワを
寄せてイライラしているよりは、体にも精神にも良さそうです。
漫才や落語を聴くなど、大笑いする機会をつくるのもお勧めですが、
普段の生活の中でも、意識して口角をあげ、笑顔をつくってみては
いかがでしょう。にこやかにしていれば人間関係も円滑になり、
余計なストレスが減るかもしれませんね。